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横浜地方裁判所 平成5年(ワ)1091号 判決

原告

小林忠士

ほか一名

被告

有限会社戸隠

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告ら各自に対し、三七九万一九三六円及びこれに対する平成三年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告らの負担とし、その余は被告らの負担とする。

四  右一は、仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  原告ら

(一)  被告らは、各自、原告ら各自に対し、二二〇八万八二四九円及びこれに対する平成三年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(三)  仮執行宣言

2  被告ら

(一)  原告らの請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

二  当事者の主張

1  請求原因

(一)  交通事故の発生

平成三年七月一日午後四時四五分ころ、神奈川県横浜市磯子区洋光台五丁目四番三一号先の横浜市道において、小林毅(以下「毅」という。)運転の自動二輪車(以下、便宜「原告車」という。)と被告木下和茂(以下、単に「被告」という。)運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)とが走行中に衝突し、これにより毅は頸椎骨折の傷害を負い、同日死亡した。

(二)  被告らの責任

(1) 被告

〈1〉 本件事故現場は、別紙「交通事故現場見取図」(以下「見取図」という。)の「環状三号線」方面から「洋光台西公園」方面へ通じる市道(以下「甲道路」という。)と「洋光台南第1団地」側と「洋光台南第2団地」側とを結ぶ団地内私道(このうち、「洋光台南第2団地」側から甲道路へ通じる道路を、以下「乙道路」という。)とが交差している筒所である。

〈2〉 本件事故は、乙道路から甲道路環状三号線方面へ右折進行しようとした被告車と、甲道路を環状三号線方面から本件事故現場に向けて直進中の原告車とが、見取図の〈×〉地点付近(正確には、同図表示の〈×〉地点から五メートル環状三号線に寄つた位置である。)において衝突したものであるところ、それは、被告が、被告車を乙道路から甲道路環状三号線方面へ右折進行させるに際し、甲道路右方の安全を十分確認しなかつたことによるものである。

〈3〉 したがつて、被告には民法七〇九条所定の損害賠償責任がある。

(2) 被告会社

被告会社は、本件事故当時、被告車を所有していた者であるから、自動車損害賠償保障法三条所定の損害賠償責任を負う。

(三)  原告らの損害

(1) 毅に生じた損害

〈1〉 逸失利益 二七九六万三一五二円

次の計算式のとおりである。

三一一万三〇〇円(年収額。平成三年度賃金センサス男子労働者学歴計二〇歳~二四歳の金額)×(一-〇・五〔生活費控除率〕)×一七・九八一〇(四七年間のライブニツツ係数)=二七九六万三一五二円

〈2〉 慰藉料 二〇〇〇万円

本件事故によつて被つた毅の精神的苦痛を慰藉すべき金額は二〇〇〇万円を下らない。

(2) 原告らに生じた損害

〈1〉 慰藉料 一〇〇〇万円

毅は原告らの長男であり、その死亡によつて原告らの受けた精神的苦痛は筆舌に尽くし難いものがある。これを慰藉すべき金額は原告ら各自について五〇〇万円を下らない。

〈2〉 諸費用 一二二万二〇九九円

原告らは本件事故のために少なくとも次の出損を余儀なくされ、これを二分の一ずつ負担した。

ア 毅の治療費等 六六四九円

イ 原告車についてのレツカー代 一万五四五〇円

ウ 毅の葬儀費用 一二〇万円

(3) 相続

原告らは毅の相続人であり、(1)の損害賠償請求権を二分の一ずつ相続した。

(4) 損害の填補

したがつて、原告らの損害額は合計五九一八万五二五一円であるところ、原告らは本件事故による損害の填補として自賠責保険から一五〇〇万八七五二円の支払を受けたから、残損害額は四四一七万六四九九円であり、原告ら各自については二二〇八万八二四九円(円未満、切り捨て)となる。

(四)  まとめ

よつて、原告らは、本件事故による損害賠償として、被告ら各自に対し、原告ら各自に二二〇八万八二四九円及びこれに対する本件事故日である平成三年七月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

2  請求原因に対する被告らの答弁

(一)  請求原因(一)は認める。

(二)  同(二)について

(1) (1)は、〈1〉と、〈2〉のうちの、本件事故が甲道路を環状三号線方面から本件事故現場に向けて直進中の原告車と被告車とが見取図の〈×〉地点付近で衝突したものであることは認め、その余は否認ないし争う。

(2) (2)は、本件事故当時、被告車が被告会社の所有であつたことは認め、その余は争う。

(三)  同(三)は、毅と原告らとの身分関係、原告らが本件事故による損害の填補として自賠責保険から一五〇〇万八七五二円の支払を受けたことは認め、その余は不知ないし争う。

3  被告らの抗弁

(一)  被告会社の免責

(1) 本件事故に至る経緯及びその発生状況は次のとおりである。

〈1〉 本件事故現場付近の場所的状況は見取図のとおりであるところ、被告は、本件事故当日、洋光台駅前のイトーヨーカ堂へ買物に行くため、被告車に乗り、別紙「走行経路図」 (以下「走行経路図」という。)の〈1〉地点所在の自宅を出発し、同図↑印の記載どおり〈2〉〈3〉〈4〉〈5〉地点を経てイトーヨーカ堂に立ち寄つた後、同所から〈4〉〈3〉〈A〉〈B〉地点を通り〈C〉地点付近所在の「ブツクスキタミ港南台インター店」に向かうべく、〈3〉地点を左折して甲道路に入つた。

〈2〉 そして、被告は、甲道路を見取図の「洋光台西公園」方面から「環状三号線」方面に向け時速四〇キロメートル程度の速度で走行していたところ、見取図〈1〉地点(なお、以下、見取図記載の符号については、それが同図記載のものであることは断らない。)に至つたとき、前方〈ア〉地点付近を時速八〇キロメートル以上の猛スピードで対向進行してくる原告車を発見した。被告車が〈2〉地点に達したとき、原告車は、中央線を越え、対向車線にはみ出すように左右にふらつきながら暴走してきた。

〈3〉 これを見て、被告は、このまま進行すれば原告車と衝突する危険を感じ、〈2〉地点で、とつさに被告車のハンドルを右に急転把すると同時に急ブレーキをかけたが、同車が〈3〉地点付近で歩道に乗り上げそうになつたため、これを回避しようとしてハンドルを左に転把したところ、同車が〈4〉地点に停止すると同時に原告車が対向車線にはみ出して被告車に突つ込み、〈×〉地点において被告車の左前部側端に激突した。なお、原告車が被告車の進路である対向車線にはみ出てきた理由はよく分からないが、速度を出しすぎており、また、原告車方向からは下り坂となつていたことから、バランスを崩したことによるのではないかと思われる。

〈4〉 事故発生後、被告は、交通の妨げとなることを恐れ、被告車に乗つたまま同車を一旦〈5〉地点にまで後退させて同地点から〈6〉地点まで前進させたうえ、再度後退させて〈7〉地点に停止させた。その後、被告が被告車から降りてみたところ、毅は〈ウ〉地点に、原告車は〈エ〉地点にそれぞれ転倒していた。

(2) 右(1)のとおりであるから、本件事故の発生は、基本的には対向車線にはみ出して被告車の進路を妨害した毅にその責任があるというべきであり、被告に過失はないというべきである。

(3) そして、本件事故当時、被告車には機能上・構造上の欠陥もなかつた。

(4) したがつて、被告会社は自動車損害賠償保障法三条の損害賠償責任を負わない。

(二)  過失相殺

仮に、被告が無過失とまではいえないとしても、本件事故の発生については毅にその主たる責任があるというべきであり、同人の過失割合は九〇パーセントを下回ることはないと考えるべきである。

4  抗弁に対する原告らの答弁・反論

(一)  答弁

抗弁(一)は、本件事故現場の場所的状況が見取図のとおりであることは認め、その余は不知ないし否認。同(二)は争う。

(二)  反論

(1) 被告らは、「被告車は、走行経路図〈3〉地点から甲道路を環状三号線方面へ走行して本件事故現場に差しかかり、本件事故に遭遇した」旨主張し、事故直前の状況は抗弁(一)(1)の〈3〉のとおりであつたとし、被告はその本人尋問においてこれに沿う供述をしている。

しかし、被告車は、甲道路を直進していたのではなく、請求原因において主張したように、乙道路から甲道路環状三号線方面へ右折進行しようとしたものであり、その際、被告が右方の安全を十分確認せずに右折進行したため、折から甲道路を環状三号線方面から直進してきた原告車の進行を妨げ、その結果両者が衝突したものである。これは、次のような点に照らして明らかである。

〈1〉 被告は、事故直後の実況見分とその後の実況見分、さらには本人尋問とで、衝突回避のための操作、衝突時における被告車の進行方向、衝突後の被告車の動向といつた、内容からして通常は間違えるはずもない基本的かつ重要な点に関する供述を変えている。しかも、その変更・訂正は、本件事故に関する第三者の目撃供述との矛盾を突き付けられて初めて行われたものである。このようなことからすると、本件事故の発生状況に関する被告の供述は、客観的裏付けがなければ全体として全く信用できないものというべきである。

〈2〉 したがつて、本件事故の発生状況は、被告の供述を除くその他の客観性のある証拠によつて認定されなければならないところ、神奈川県警察科学捜査研究所作成の鑑定書(乙第九号証)によると、衝突位置は見取図〈×〉地点から約五メートル環状三号線に寄つた位置、衝突時における被告車の速度は時速一五ないし二五キロメートル、そのときの被告車の向きは別紙「図1」に表示されているとおりである。右による衝突時の被告車の位置と向きは、これをその後方へ延長すると、まさに見取図の「洋光台南第2団地」出入口と一致する。また、右による衝突地点において被告車が時速一五ないし二五キロメートルで進行するという状況は、同車が右の「洋光台南第2団地」出入口から甲道路環状三号線方面へ右折したと考えて初めてよく説明ができることである。右の鑑定結果は、被告車が右の出入口から甲道路に進入した直後に本件事故が起きた場合に見事に整合する。

〈3〉 また、右鑑定書に加えて、原告主張の事故態様を基礎づける事情として次のような点を指摘することができる。

ア 被告らは、衝突直後に切り返しを行い被告車を「洋光台南第2団地」出入口に後退させて停止した旨主張するが、仮に、甲道路を直進中に本件事故に遭つたとすれば、わざわざ切り返しをして右出入口にバツクで進入するというのは極めて不自然であるし、そもそも衝突地点からは後退すればそのまま右出入口に入れるのであり、何ら切り返しの必要はない。事故直後の目撃者達も切り返しを見ていないし、被告自身、事故直後の実況見分では切り返しどころか、右出入口にバツクで入つたとさえ述べていない。したがつて、被告が切り返しを行つた事実はない。それにもかかわらず被告らがこれを主張し、被告がそれに沿う供述をするに至つたのは、被告車が右出入口から甲道路に進入したことを隠すために、衝突後そのまま被告車を後退させたことをも隠そうとしたことによるものというべきである。

イ 被告らは、見取図〈3〉地点付近で歩道に乗り上げそうになつたためハンドルを左に転把した旨主張するが、仮に、被告車が甲道路を直進し、当初ハンドルを右に切つたとしても歩道に乗り上げてしまうような状況にはなかつた。

ウ 訴外占部美好は、本件事故発生直前に見取図「洋光台南第1団地」方向から「洋光台南第2団地」方向へ横断しているが、その際、被告車が甲道路を右手から進行するのを見ていないし、その気配さえ感じていない。

エ 被告らは、原告車が見取図〈ア〉地点付近を時速八〇キロメートル以上の猛スピードで進行し、中央線を越え、対向車線にはみ出すようにふらつきながら暴走しきた旨主張する。しかし、原告車の進行していた甲道路は、原告車の進行方向からは一〇〇分の四の上り勾配で、本件事故現場付近を過ぎて下り坂となつており、被告らが原告車が暴走してきたという辺りでは、上り坂の頂点を越えては前方が見えない状況にあつた。このような地形・状況の道路において、中央線を越えて自動二輪車を走行させるなどというのは自殺行為に等しい。しかも、毅は現場の道路状況をよく知つていたのである。そして、原告車が中央線を越えて進行してきたということについては、全く信用に値しない被告の供述しか存しない。したがつて、原告車が被告らのいうように中央線を越えて暴走してきたということはないというべきである。しかし、原告車は、最終的には中央線を越えているのであるから、問題は、本件事故現場に向かつて走行してきた原告車がなぜ手前で右へ転把し、中央線を越えたか、であるところ、本件事故現場付近において原告車進行方向左手から進路に車両が進入してきたため、これを回避しようとしたからと考えるのが最も自然であり、合理的というべきである。

(2) 仮に、被告車が見取図「洋光台南第2団地」出入口から甲道路に右折進行したのではなく、被告ら主張のように、甲道路を直進して本件事故現場に差しかかつたものであるとしても、被告は、被告車が歩道に乗り上げそうにはなつていなかつたにもかかわらず、原告車が進行してくることを承知のうえその方向ヘハンドルを切つたもので、それは故意に事故を起こしたと評価されるべきであるし、さらに仮に被告車が歩道に乗り上げそうになつたものであるとしても、それを避けるため原告車と衝突することを選ぶということは、自動車運転者として明らかに基本的判断を誤つたものというべきであり、本件事故が発生した原因は被告にある。

(3) なお、仮に、毅に何らかの過失相殺事由があるとしても、その過失割合は五パーセントを超えることはない。

5  原告らの反論に対する被告らの再反論

(一)  被告車の進行経路について

原告らは、被告車は見取図「洋光台南第2団地」出入口から甲道路へ右折進行した旨主張する。しかし、右出入口から洋光台南第2団地に通じる乙道路は、先は駐車場で行き止まりであり、団地の居住者用の通り道の道路である。本件事故前、被告がこの乙道路から甲道路に進行する必要・理由は全く存しないし、仮に被告車が乙道路を通つて甲道路に進行したとすれば、これを目撃し得た可能性の大きい者が二人いることが証拠上明らかであるが、いすれも被告車が乙道路を走行しているのを目撃していない。そして、警察は、被告車の進行経路について、かなりの時間をかけて重点的に捜査を行つたことが窺われるところ、結局、被告車が乙道路から甲道路に進行したことを示す証拠は何ら見い出すことができなかったのである。

(二)  衝突態様について

原告らは、乙第九号証を援用し、それが原告ら主張の事故態様を裏付けている旨主張するが、同号証は、何よりも原告車の暴走行為を裏付けるものというべきであり、決して原告ら主張の事故態様を客観的に裏付けるものとはいえない。

(1) 乙第九号証は、衝突時における原告車・被告車の速度、衝突地点及び衝突角度を推定しているが、なぜ原告車が中央線を越えて対向車線に進行してきたのかは直接説明していない。重要なことは、原告車が衝突直前制限速度を上回る速度で対向車線で衝突していることの持つ意味の重大性である。仮に、原告らの主張するように、被告車が乙道路から甲道路に進行したものとしても、同車は右折を完了すれば原告車の対向車線に入るのであるから、毅において、これを予測し、ハンドルを左に転把して適正な制動をかければ、本件事故を回避し得たはずである。仮に、原告車が制限速度を上回つていたにしても、時速五五キロメートル程度の速度であつたのであれば、なおさら右の回避措置をとることは容易であつたはずである。

(2) 乙第九号証は、衝突直前の被告車の速度を時速一五キロメートルないし二五キロメートル前後程度と推定しているが、これは、被告車が完全には停止していなかつた可能性があることを示唆するものにすぎないというべきである。

(3) さらに、乙第九号証の推定する衝突地点及び衝突角度も、被告らの主張する事故態様と決して矛盾するものではない。

三  証拠関係

記録中の書証目録・証人等目録のとおりである。

理由

一  請求原因(一)(交通事故の発生)は、当事者間に争いがない。同(二)(被告らの責任)は、本件事故の発生について被告に過失があることは被告らの抗弁に対する判断で認定・説示するとおりであり、本件事故当時、被告車が被告会社の所有であつたことは当事者間に争いがない。したがつて、被告は民法七〇九条に基づき、被告会社は自動車損害賠償保障法三条に基づき、それぞれ本件事故による損害を賠償すべき責任がある。

二  請求原因(三)(原告らの損害)について判断する。

1  毅に生じた損害

(一)  逸失利益

成立に争いのない甲第一号証、原告小林忠士本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、毅は、本件事故当時二〇歳(昭和四六年三月一五日生まれ)の独身男子であり、大学進学を諦めたわけではないが、機動警備保障株式会社にアルバイト的に勤め、道路工事現場における交通整理などを行う交通誘導員として稼働していたことが認められる。

右事実によれば、他に逸失利益算定に資する証拠のない本件においては、毅の逸失利益の現価は、年収額を賃金センサス平成三年第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、男子労働者全年齢の平均年収額である五三三万六一〇〇円、生活費控除率を五〇パーセント、就労可能年数を事故時の二〇歳から六七歳までの四七年間とし、中間利息の控除についてライプニツツ係数を用いてこれを算定するのが相当である。したがつて、次の計算式のとおり、四七九七万四二〇七円となる。

五三三万六一〇〇円(年収額)×(一-〇・五〔生活費控除率〕)×一七・九八一〇(四七年間に対応するライプニツツ係数)=四七九七万四二〇七円(円未満、切捨て)

したがつて、本件事故による損害としての毅の逸失利益は、右金額の範囲内で原告らが本訴において主張する二七九六万三一五二円の限度でこれを認めるべきことになる。

(二)  慰藉料

右(一)認定の毅の年齢・立場等を勘案すると、同人に関するいわゆる死亡慰藉料は、総額で一八〇〇万円と認めるのが相当であり、原告らの主張に鑑み、同人の慰藉料はこのうちの一二〇〇万円とする。

2  原告らに生じた損害

(一)  慰藉料

前掲原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告らは毅の両親であり、毅は原告らの長男であつたことが認められる。毅の死亡による原告らの慰藉料は、前記の一八〇〇万円のうちの六〇〇万円(各三〇〇万円)をもつて相当と認める。

(二)  諸費用

前掲原告本人尋問の結果により成立を認める甲第五号証、同本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件事故のために、少なくとも、毅の治療費等として六六四九円、原告車についてのレツカー代として一万五四五〇円、毅の葬儀費用として一二〇万を出捐し、これを二分の一ずつ負担したことが認められる。

3  相続

右2(一)認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、原告らは毅の相続人であり、1認定の毅の損害賠償請求権を二分の一ずつ相続したことが認められる。したがつて、原告らの損害額は合計四五一八万五二五一円である。

三  被告らの抗弁について判断する。

1  前提となる事実関係

(一)  当事者間に争いがない事実、成立に争いのない甲第二号証ないし第四号証、乙第一号証ないし第九号証、原本の存在・成立に争いのない乙第一一号証、証人青柳三男・占部美好の各証言、原告小林忠士・被告各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、本件事故現場付近の場所的状況は概ね見取図のとおりであること、甲道路は、環状三号線方面からやや上り勾配で、本件事故現場付近手前から一〇〇分の四程度の下り勾配となつていること、最高速度は毎時四〇キロメートルと指定されていること、甲道路の〈×〉地点付近前後の見通し状況は、〈×〉地点から洋光台西公園方面寄り約二四・六メートルの地点において、約七〇メートル程度の範囲で環状三号線方面から進行してくる車両を視認することが可能であり、したがつて、その逆もまた可能であつたこと、原告車は、甲道路を環状三号線方面から進行していたところ、見取図の〈×〉地点ないしは同地点から五メートル程度環状三号線方面に寄つた地点付近において、その左前部と被告車のフロントバンパー左前部とが、別紙「図1」に示されているような態様で衝突したこと、衝突時における両者の速度は、被告車は時速一五ないし二五キロメートル前後、原告車は時速五五ないし八〇キロメートル前後程度ではないかと推定されていること、衝突後、原告車は見取図〈エ〉地点付近に転倒・停止し、毅は〈ウ〉地点付近に転倒したこと、被告は、被告車を〈×〉地点から後退させ〈7〉地点付近に停止させたこと、以上の事実が認められる。

(二)  右の認定に反する証拠はないとともに、前掲各証拠を彼此総合勘案すると、右認定を超えて本件事故の態様を特定するのに資する的確な事実を認めるのは困難である。

すなわち、本件事故の態様について、被告らは、被告らの抗弁(一)(1)のとおり、被告車が甲道路を洋光台西公園方面から直進していたところ、原告車が環状三号線方面から時速八〇キロメートル以上の猛スピードで中央線を越え、対向車線にはみ出すようにふらつきながら暴走してきたため、被告は衝突回避の措置をとつたが結局本件事故に至つた旨主張し、一方、原告らは、被告車は乙道路から甲道路に右折進行したもので、その際、被告が右方の安全を十分に確認しなかつたため、原告車の進行を妨げ、その結果本件事故に至つたものである旨主張し、それぞれその論拠を縷々述べている。そして、各論拠としている点については、それなりの証拠がないではない。

しかしながら、まず、被告らの主張についていうと、その主たる論拠は、被告自身の供述であるところ、それに関しては、前掲乙第一号証、第四号証及び被告本人尋問の結果によれば、原告らも指摘しているように、事故直後の実況見分とその後の実況見分、さらには本人尋問とで、衝突回避のための被告車の操作、衝突時における被告車の進行方向、衝突後の被告車の動向といつた点において、事故による動転とか勘違いといつたことがあり得ることを考慮しても、なお釈然としない変更・訂正があること、特に、衝突後の被告車の動向について、事故直後の実況見分では、被告車は衝突地点から環状三号線方面に五メートル程度進行した地点に停止した旨を述べていながら、その後、被告ら主張のように、衝突地点から見取図〈5〉地点までの後退、同地点から〈6〉地点までの前進、再度の後退による〈7〉地点での停止といつたことを述べているのは、いかにも解せない話といわなければならないだけでなく、右のような操作は、それ自体自然な行為とも思えないこと、前記(一)で認定した、衝突地点や衝突時における原告車・被告車の各速度と位置関係は、被告が本人尋問で供述し、事故態様についてのその最終的認識と思われるところと全く整合しないとまではいえないにしても、いずれかといえば、原告ら主張の事故態様とより良く整合していること、等の事情が存在するのであり、これらを勘案するならば、被告自身の供述をそのまま直ちに採用するには躊躇を覚えざるを得ない。

次いで、原告らの主張についていうと、それは、要するに、被告車が乙道路から甲道路に右折進行したということを基本とするものであり、前記(一)認定の衝突地点や衝突時における原告車・被告車の各速度と位置関係がこれに良く整合していることは右に説示したとおりであるが、前掲甲第四号証、証人占部の証言及び弁論の全趣旨によれば、乙道路は団地内の道路で、先は駐車場で行き止まりになつている程度のものであることが認められるところ、被告が本件事故当時これを通行しなければなかつた必要はもとより、たまたま何らかの理由でこれを通行したと考えるべき事情も全く窺うことができないことを考えると、原告らの主張もまたそのまま採用するには躊躇せざるを得ない。

2  そこで、右1(一)の事実に基づいて検討すると、本件事故は、被告車が乙道路から甲道路へ右折進行しようとしたものか、それとも甲道路を直進中であつたかは、いずれとも特定できない状況のもとで発生したものとみるほかないことになるが、いずれであつたにしても、甲道路の本件事故現場付近の見通し状況と衝突時における原告車・被告車双方の速度からするならば、毅及び被告は、衝突に至る前、互いに相手車両の動向を視認し、衝突回避のための適切な措置を講ずるに足りる時間的・距離的余裕があつたものというべきであり、それにもかかわらず衝突に至つたのは、両者とも相手車両の動向に対する十分な注意を欠いていたことによるものといわなければならない。したがつて、本件事故は、毅及び被告の双方の過失が相俟つて発生したものと認めるのが相当であり、被告が無過失であつたとはいえない。そして、過失割合は、右のように事故態様を十分特定できないこと、したがつて原告車が衝突地点においては中央線を越えていたことをもつて直ちに毅の過失割合の加重要素とすることはできないこと、また、原告車が制限速度を超えて走行していたことも、超過の程度を確定できないうえ、一般に四輪車対二輪車の事故については四輪車により大きな注意義務を措定するのが相当と考えられることからすると、これを直ちに毅の過失割合を加重するものとまでみることはできないこと、等の事情を総合勘案し、交通事故による損害の負担の公平の見地から、毅・五、被告・五と認めることとする。

3  以上のとおりであるから、被告らの抗弁は、免責の主張は理由がなく、過失相殺の主張は右の限度で理由がある。そこで、原告らの前記認定の損害額について右割合による過失相殺をすると、原告らの損害額は二二五九万二六二五円(円未満、切捨て)となる。

四  損害の填補

原告らが本件事故による損害の填補として自賠責保険から一五〇〇万八七五二円の支払を受けていることは、当事者間に争いがない。したがつて、原告らの残損害額は前記の二二五九万二六二五円から一五〇〇万八七五二円を控除した七五八万三八七三円であり、原告ら各自については三七九万一九三六円(円未満、切捨て)となる。

五  まとめ

よつて、原告らの請求は、被告ら各自に対し、原告ら各自に三七九万一九三六円及びこれに対する本件事故日である平成三年七月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める限度において理由があり、その余は失当であるから、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 根本眞)

走行経路図(走行予定経路含む)

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